在来工法と奈良産木材が支える家づくり
大工としての長い経験を土台に、住まう工房 秦建築は新築・リフォーム・リノベーションの各分野で施工を重ねてきた。在来軸組工法の技術を受け継ぎながら、最新の耐震技術や断熱工法も取り入れ、50年、100年先を見据えた住宅を手がけている。木材を適材適所に配置して組み上げる職人の手仕事と、将来のメンテナンスまで考慮した設計が、住み始めてからの満足度を左右する。奈良県橿原市という土地柄を活かし、地元で育った木を構造材から内装まで使い切るスタイルを貫いている。
同じ気候のもとで成長した奈良産の木材は、施工後に反りや歪みが出にくく、強度・耐久性の面で優位性がある。個人的には、吉野桧の木目が室内に入る光で表情を変える様子がとても印象的だった。構造躯体に地域材を用いることで輸送コストが抑えられ、その分を仕上げや設備に回せるという実利的な面も見逃せない。施主から「木の香りが数年経っても残っている」という声が寄せられることも少なくないようだ。
古民家を現代の暮らしに再生する技術
奈良県橿原市周辺には歴史ある建物が数多く残り、住まう工房 秦建築はそうした古民家のリノベーションを得意領域としてきた。既存の梁や柱の状態を一本ずつ確認し、残せるものは活かしながら、耐震補強や断熱改修を施していく。吉野桧を使った木塀の施工など、建物ごとの個性に合わせた仕事を丁寧に積み重ねている。古い建物が持つ空気感を壊さずに、現代の生活動線や設備水準へ引き上げるには、構造を熟知した大工の判断が欠かせない。
築80年を超える民家の改修では、屋根裏に隠れていた太い松の梁をあえて露出させ、リビングの天井に取り込んだ事例がある。元の骨格を見せることで空間に奥行きが生まれ、新築では得られない独特の雰囲気が生まれた。天然素材を中心にした施工を崩さず、断熱材や耐震金物といった現代の技術を裏側にしっかり仕込む手法は、見た目の美しさと性能を両立させている。風土に合った木材を選ぶことで建物の寿命そのものを延ばし、次の世代へ引き渡せる状態に整えている。
「一緒につくる」を屋号に込めた設計の進め方
住まいは買うものではなく、施主と一緒につくり上げるもの――この考え方が住まう工房 秦建築の設計プロセスを形づくっている。初回のヒアリングでは間取りの希望だけでなく、家族の将来像や日々の動線まで踏み込んで聞き取る。図面に落とし込んだ後も打ち合わせを何度も重ね、完成後の「ここをこうすればよかった」を極力なくすことに時間を割いている。強くてしなやか、そして家族が笑って集まれる家をつくりたいという思いが、屋号の由来にもなった。
「設計段階で何度も現場に足を運んでくれたので、窓の位置ひとつにも納得感があった」という施主の感想が印象に残る。既製品のプランを当てはめるのではなく、土地の形状や周囲の環境を読みながらゼロから線を引いていく進め方は、打ち合わせの回数が自然と増える。それでも完成時の満足度が高いのは、過程を共有しているからこそだろう。家づくりの期間そのものを楽しんでもらうことが、住まう工房 秦建築にとっての一つの目標になっている。
畝傍山麓の自社工房が生む施工精度
1999年の設立以来、住まう工房 秦建築は奈良県橿原市の畝傍山麓に自社工房を置いている。直角2面カンナ盤、超仕上げ機、バンドソー、パネルソーなど多様な木材加工機械を備え、原材料のカットから部材の組み立てまでを一箇所で完結させる体制を築いた。外部に加工を委託する工程が少ない分、寸法の誤差や仕上がりのばらつきを現場に持ち込まずに済む。工房で部材を仕上げてから現場へ運ぶ流れは、施工スピードの面でも有利に働いている。
地元の木材業者や専門加工業者との取引が長く続いており、品質の安定した奈良産材を必要な時期に確保できるルートが整っている。「工房を見学させてもらったとき、木の削りかすの香りと機械の音で、ここで家がつくられるんだと実感した」と話す施主もいるという。加工から施工まで目の届く範囲で管理するこの仕組みが、細部の精度にこだわる住まう工房 秦建築の仕事を下支えしている。


